子孫へ贈る

夫れ祖上有らずして我が身いずくんぞ生まるるや。そもそも、先祖がいなければどうして自分がこの世に生を受けることができるであろうか、いやあろうはずがない。

臣(しん)は奉参星(ほうしんせい)である。「臣」とは家来が主君に対して自分自身をへりくだっていう一人称であり、古来より我が一族は高麗王朝及び朝鮮王朝などに仕えてきた経緯があるので、そのように(勝手に)呼称する。現在は日本に在住して既に帰化しているため、お仕えする君は天皇・皇朝となる。

さて、臣は若い頃から自分のことだけを優先しておきながら、人生の選択肢を誤って失敗しては悩み、何一つ達成することもできず、ふらふら生きてきた。恐らく親に気苦労をかなり掛けたであろうことは想像に難くない。

そんな自分が何故このようなものを我が子孫へ贈り伝えようとしているのか。それは冒頭文章のように、生まれ生きることができるのは親や先祖のおかげであり、またこれに感謝し恩に報いるためには親や先祖と同じように血を次世代に引き継ぐことであるということを、子供が生まれるという体験を通じて気付いたからである。

血を分けた子供を授かった今、自分は親や先祖、子孫へ何ができるのかを自問した結果、子孫がより良く生きて血統をつなげるために、これまで数多の失敗を重ねた経験や教訓、そして我が一族の系譜を伝え活かすことであると思い至った。経験や教訓が有意義なのは当然として、系譜の方は(難しい漢文とハングルゆえ完全に翻訳・解読できないが)由緒ある血統で歴史に名を連ねていることなどが書かれており、誇らしい事績などを残した人物もいれば、しくじったり自分の欲に忠実な人物もいた。これも子孫への贈り物には正にうってつけではあるまいか。

系譜や家訓の他に、臣が長年収集した哲学、思想、宗教の知識を基に天下国家を語っている。もちろん、臣は専門家や学者ではないので完璧な理論ではない。しかし、考え語ることは古来より政治に参与した一門として当然であるし、何よりも人がより良く生きていく上で国家や社会との関わりを無視することはできない。人は社会(ポリス)的動物なのである。

我が子孫よ、高貴ある血統や知恵を武器に、この混沌とした世の中を力強く生きて欲しい。大いに天下国家を語り、社稷(しゃしょく)に寄与して欲しい。そして、受け継がれた血統を維持拡大せよ。それが祖上の恩に報いる方法なのである。この贈り物が汝(なんじ)らの道標になることを願ってやまない。

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